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執筆者の写真功一 中川

資金調達とは何か

コーポレート・ファイナンスにおける資金調達とは何か

資金調達とは、言葉の通り、会社の経営に必要な資金を集めてくることです。ひいては、そのための一連の活動自体もまた「資金調達」と呼ばれます。学問分野としては、コーポレート・ファイナンス(企業財務)と呼ばれる領域で扱われます。


ここでは、そのコーポレート・ファイナンスで議論されていることを土台に、資金調達の概要について説明します。


事業を行うためにはまず資源が必要


古くは1960年代、ピーター・ドラッカー、クーンツなどの主だった経営学者たちが「経営の重要な役割は、事業活動に必要な資源を集めることである」と主張しています。会社経営というと、いかなる製品・サービスを、どう提供するかというマーケティングの視点と、どうやって人々を編成・管理するかという組織マネジメントの視点が注目されがちですが、事業活動をするために必要なものを揃え、それを管理していく活動もまた極めて大切なのです。これこそが、企業経営の第3の柱たる財務・会計の役割です。


たとえば、あなたがロボットを製造するベンチャー企業を立ち上げたいと思ったとしましょう。このとき、あなたがまず考えなければならないのが、資金調達です。自分の手元のお金でスタートするのでは、大きなことはできませんし、ロボットの完成に何年かかるとも判りません。しかし、銀行からかベンチャーキャピタルからか、資金を調達することができれば、人材や技術・設備を揃えることができ、最初からある程度の規模で事業活動を開始できるのです。


これはもちろん、成熟した大企業でも同じです。何か新しいことをしようとする時に、資金を外部に頼れれば、成長機会を逸せずに済みます。たとえば、新工場を設立したり、大規模な広告キャンペーンを行ったり、海外に進出したり…というとき、自社の内部留保だけでは資金が足りないことがあります。あるいは、事業の調子が悪く、当座の資金が必要になることもあるでしょう。そうした場合に実施するのが、資金調達なのです。


資金調達の方法

資金調達には大きく2種類の方法があります。それは、出資と融資です。出資と融資の違い…は、あなたが財務・経理、あるいは経営者でなければ、日ごろさほど意識することはないでしょう。しかし、この2つが決定的に異なる方法であり、上手く使い分けていくことこそが、コーポレート・ファイナンス目線からの資金調達の鍵となります。


出資

出資とは、会社のオーナー(所有者)の一人としてお金を出してもらう形です。出資者は、その対価として会社の株式を取得します。いわば、出資した人はその会社の経営サイドに入ることになるわけです。お金を出して、その分だけ会社の経営権を手にするのです。


出資者は、会社の所有者の一人として、その成功も失敗もすべて自責となります。経営の権利を得る分だけ、リスクも自分で背負い込むのです。その分、株主総会などの場で、出資分に応じて会社の経営に口を出す権利をも獲得します。そうして、会社の経営を一緒に担い、成功も失敗も分かち合うかたちをとるのが出資です。


なお、出資による資金調達のことを、株式(エクイティ:Equity)から、エクイティ・ファイナンスとも呼びます


出資は、一般的に、エンジェル投資家や、ベンチャーキャピタル、証券会社などが担います。


融資

融資とは、あくまで会社の外部の存在として、会社にお金を貸すことです。経営サイドから見れば、借金をすることになります。借金なのですから、それは返済義務が発生します。経営者はそれを契約に基づいて返済していかねばなりません。


その一方で、融資をする人はあくまで会社の外部の存在なのですから、会社の経営に口出しはできません。融資をする人は、事業経営の失敗に対するリスクを負わない分だけ、経営の権利も得られないのが、融資なのです。また、融資先が大きな成功を収めたとしても、リターンはあくまで利子の分だけであり、良くも悪くも支払額が変動しないのが融資の特徴です。


融資は、会社にとっての負債(デット:Debt)となることから、デット・ファイナンスと呼ばれます。融資は一般的に銀行が担います。


重要度を増すエクイティ・ファイナンス

近年、資金調達、とくにエクイティ・ファイナンスが経営上の重要度を高めています。というのも、「稼いだ金を自社に投資して成長する」という考え方よりも、「最初に投資を受け、大きな事業をつくってから、稼ぐ」という考え方が、ベンチャーでも成熟会社でも大切になっているからです。


前者の「稼いだ金で成長する」論理だけで経営するならば、経営者が考えるべきことはもっぱらマーケティングと組織のマネジメントのことだけになります。会計情報とは、その結果を報告するものにすぎません。かつて日本では、ベンチャーでも成熟企業でも、事業の考え方はもっぱらこのアプローチでした。足りない資金があった場合には銀行から一部借金をしてくるけれども、基本的には自前の資金でなんとかする、と考えるのです。


しかし、近年では、後者の考え方が大切になってきています。何か事業を行う時、最初に資金を調達し、それを人材や設備、ノウハウ、技術に変えて、大きな事業を構築し、収益を上げるのです。Facebookも、テスラも、グーグルもamazonも、近年大きな業績を上げている会社は、じわじわと稼ぎを大きくしていったのではなく、最初から莫大な出資を受けて、そのお金で大きな展望を描いた事業を行い、成功をしているのです。


事例:資金調達を武器に大きな成長を遂げたメルカリ

日本でも、そうしたベンチャーが登場するようになっています。典型例として知られるのはメルカリです。2013年に設立されてから、わずかに10年にも満たないうちに日本最大のフリマサイトに成長したメルカリですが、同社は従来の「利益をあげて、その金を土台に成長する」方法を採りませんでした。


博報堂傘下のユナイテッドなどの企業や投資家から早々に資金調達を実現し、その資金を元に精力的な広告を打ち、事業を一気に大きくしたのです。


こうした、身の丈に合わせる形で成長していくのではなく、事業初期段階から一気に成長させるアプローチをブリッツ・スケーリング(Britz Scaling)と言います。


かくして、売上を上げる事、事業組織を作ることと同列かそれ以上に、資金を集めることがベンチャー企業にとって必須のことであると言えるでしょう。


資金調達を、成長のための戦略の一つに

日本では、この資金調達、特にエクイティ・ファイナンスというアプローチが社会に十分に理解されていると言えません。中小企業がエクイティ・ファイナンスを戦略に組み込むことは稀ですし、成熟企業でも資本市場を活用して資金調達するケースはあまり聞きません。


しかし、この経済の状態に目を向ければ、家計セクターや産業セクターの支払い余力は減っている一方で、金融セクターはカネ余り…という状況ですから、経済の活性化、企業の成長を志すなら、活用すべきは金融セクターに滞留しているカネです。国家レベルでも、民業レベルでも、資金調達をより積極活用することが、いま、求められていると言えるでしょう。


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(APS学長・中川功一)



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