組織と人を破滅に導く、確証バイアス【行動経済学5】
「圧倒的じゃないか、わが軍」は、このように言って、破滅を迎えた個人や企業は枚挙にいとまがありません。本日は、人間を破滅にもたらしやすい非常に危険な人間心理であり、そして我々の人間としての本質でもある、確証バイアスというものについて、皆さんに解説したいと思います。
確証バイアス
確証バイアスは、もともと心理学で研究が深められておりました。これが、経済的な意思決定をするときにかなり強く働いていることが分かってきまして、行動経済学の中でも一つの中核概念として研究されるようになっています。
で、確証バイアスって何なのか。バイアスというのは、シンプルに言えば、思い込みのことです。 確証バイアスとは、私達は確証を掴みたいというバイアスがあるということです。自分が信じていることが、正しいんだと思いたいという心の働き・脳の働きがある。
人は見たいものだけ見る。自分が見たいと思っているものしか、目に入らなくなる。そうして人間は信じたいものだけ信じる。そういう傾向がある生き物なんです。
確証バイアスは、人間のひとつの本質
これは、私達が避けようがない人間としての一つの本質なんです。なぜ、人間はそのように進化してきたか。どうして確証バイアスなんてものが働くように私達の脳が発展してきたのかと言いますと、そうでもしないと、膨大な情報の中から、自分たちにとって大切な情報だけをピックアップできないからです。あえて、このように脳が進化してきたんです。自分たちにとって大切なものだけに意識が集中するように、私達は進化を遂げてきてしまったのです。
例えば人がたくさんいる中で、自分たちが大切な人だけを見つけなきゃいけないとき。人は、それができるように進化してきた。だから私達は、バーって広がる人混みの中から、友人知人家族はピンポイントで「あ、いた!」と見つけることができる。
これができるのは、固着性という脳の機能のためです。確証バイアスを起こしている、原因となる機能。私達は、興味関心のある問題に集中できる。人混みの中から、ピンポイントで誰かを見つける。ガヤガヤという騒音の中から、自分の名前が聞こえる。自分の興味関心のあるものごとは、無意識下でもそれだけピックアップして抜き出すことができる。
現代社会では、これが何をもたらすか。例えば、何十人もいるようなアイドルさんの中でも、自分の推しメンだけピンポイントで輝いて見えて、その子だけ目が追えるようになっている。大量にいる中でも、その子が一番かわいい、その子がやることが一番キュートであると、そういうふうに私達の脳はとらえてしまうんです。
確証バイアスは多くの企業・個人・国を破滅に導く
もうおわかりだと思いますけども、これがビジネスの場でどう作用するかといえば、事業をしようとするときには、良い情報ばかりを集め、「圧倒的ではないか、わが軍は」「完璧じゃないか、私は」「このビジネスモデルは素晴らし」と、このように人間を錯覚させてしまうのです。
学者たちが長年研究してきた結果でも、確証バイアスが、数多の企業、個人、あるいは国を破滅に導いてきたということが明らかになっています。例えば、私自身がやった研究で言えば、自社の液晶は最強最高だと信じて疑わなかったシャープさんは、その自分たちの液晶が勝てるという思い込みに引きずられて、一度破滅を迎えてしまいました。
あるいはアメリカのポラロイドという会社があるんですけど、今のポラロイドカメラというカメラの名前にもなっていますけれども、印刷写真がなくなるはずはないと信じて疑わなかった、ポラロイドという会社も破滅を迎えてしまいました。
また、ボタンがないカチカチ押せない携帯なんて日本市場で売れるはずがないと思い込んでいた日本携帯メーカーは、今やもう大半がなくなってしまって、全てスマートフォンに置き換えられてしまいました。
歴史の中でも、極東の島国小国が、まともな艦隊軍隊を持てるはずがないと信じて疑わなかった。帝政ロシアロマノフ王朝は戦争に負け、滅びの道を進んでしまいました。
そして「圧倒的じゃないか、わが軍は」と、このように戦局を俯瞰していたギレン・ザビというガンダム の中の人物ですけども、この人の軍隊というのも、敗北を喫してしまう。
ご覧のように、信じたいものだけ信じるというのは、最も危ない人間の心理特性の一つなんです。私達はついつい良い情報だけ見て、悪い情報をシャットアウトするようにしてしまうのです。こういう性質があるということを知っておきましょう。
確証バイアスを回避せよ
それでは、確証バイアスということを知った今、私達が何をすべきか。もう、これはシンプルに、あなたが意思決定をするときに何か判断をするとき、確証バイアスにとらわれてはいないかどうか反省をし、確証バイアスから逃れるようにしよう、ということです。その存在を知り、人にはそういう傾向があることを理解したうえで、最大限気をつける。それしかない。
なんたって、これは人間の一つの本質であり、歴史上様々な場面で、人類史の中で顔を出してきた私達の性(さが)です。私達はこうした確証バイアスというものの中にいるんだということを知っておき、何かあなたが重要な決断を下すときに、今私は確証バイアスにとらわれていないだろうか、と一度反省して、自分の思考をリセットする、これ以外にはないわけです。
しかし、逆にですね、この確証バイアスというものが、私達が逃れることができない一つの人間の本質であるとしたならば、それを上手にマーケティングやマネジメントに応用するということも、同時にまた考えておくべきでしょう。悪用厳禁ですが、本当にこれはめちゃくちゃ効くんです。私達は見たいアイドルだけ見て、聞きたい音楽だけ聞いて、見たい情報だけ集めて、自分の好きな情報の中だけで生きたいと願うわけです。
確証バイアスをマーケティングやマネジメントに活用する
人は見たいものだけ見る。だとすれば、マーケティング上やるべきなのは、聞きたいことを言ってあげる、見せたいものを見せてあげればいいわけです。みんなが好きなタレントをCMに起用し、言ってほしい言葉をささやいてあげる。これによって人々は、あなたの商品サービス、あるいはあなたの会社に対して、愛着を持つ、もっとその情報を聞かしてくれ、もっとあのアイドル見してくれ、そうやって釘付けになっていくわけです。
あなたがやるべきことは、そんなに難しくないです。「この商品知ってる!これ持っている人って、いけてるよね」「この商品最高だよね」「これ持ってない人ってやばいよね。あなた、持ってるの?最高じゃないですか」「この商品、こんなすごい機能がある」「これって、あの女優さんも使っているんですよ」「これ持っている人っておしゃれじゃない?」そういう言葉をたくさん投げかけていけば、自然とそこでブランドに対する愛着というのは高まっていくんです。
ある意味では、マーケティングというのはものすごくシンプル。聞きたいことを聞かせてやり、見たいものを見せてあげる、これがやっぱり一番効いてくるわけです。
もちろん、マネジメントに関しても同じです。あなたが上手に人心掌握をして、組織を作ろうと思えば、その人が見たい景色を見せてやる、聞きたいことを聞かせてやる、そういうふうにやっていけばいい。ある意味で言えば、確証バイアスというもののもとに生まれた私達というのは、これによって心を掴まれてしまう傾向があるわけです。
もう何回目かの発言になりますけれども、悪用は、厳禁。しかし、活用するときには上手に活用して、チームの輪を作り、マーケティングを上手に進めてください。そして一方では、この確証バイアスというものによって、自分の判断が悪い方向に導かれていないかどうか、常にこの確証バイアスという言葉を胸に秘めて、ブレーキをしっかり踏みながら、意思決定をするようにしていきましょう。
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