モティベーションは、組織と個人を動かすエネルギー。
モティベーションは、「動機」と翻訳されます。個人が、何らかの行動をすることについて前向きになれている心理状態です。私達は、機械とは違います。燃料(カロリー)が十分に足りていても、私たちは行動を実行することはできません。心がそれに向かってこそ、行動できるのです。そのような意味で、モティベーションは、個人を動かすための基礎的なエネルギーであり、ひいては組織というものが動くための基礎的なエネルギーだとも言えます。
モティベーション(動機)は、組織と個人を動かす基本エネルギー
かくして、モティベーションは経営学の中で一番最初に探求された概念のひとつであり、現代でも最重要テーマのひとつとなっています。本稿では、そのモティベーション理論の基本部分をしっかり解説します!これを読んでいただければ、経営学の学部レベルの基本は押さえられたと言ってよいでしょう。
事業組織におけるモティベーションの基本:しっかり経済的に報いる
テーラーの科学的管理法
モティベーション研究の原点は、20世紀初頭、フレデリック・テーラーというアメリカのコンサルタントに遡ることができます。当時は大量生産が始まった時代で、いかにして効率的に生産するかが企業の重要課題となっていました。そんな折、各社を指導してくる中で、テーラーが編み出したのが「差別的出来高制度」です。
その方法はシンプルです。模範的労働者の作業を研究し、標準作業を決めます。それに基づいてノルマを設定、ノルマを達成出来たら飛躍的に賃金が上がるというものです。
この方式であれば、企業は難なく労働者にノルマを達成させることができ、他方で労働者も生産性高く働いて多くの給与をもらえるとして、テーラーはこれを経営者と労働者それぞれに最大の幸福をもたらす方法だと信じて疑いませんでした。テーラーはこの方式に「科学的管理法」と名付けます。管理の科学の、始まりなのです。
この方法は、上手くいく場合も多かったようですが、必ずしもテーラーが意図したような結果にはならない場合もあったようです。経営者による労働強化であるとして、労働者たちが強く反発したためです。標準作業を測定し、重いノルマを設定しようとする経営者に対して、労働者たちのストライキが盛んに行われました。、こうした結果を見ると、「科学的」に完全な方法だったかといえば、必ずしもそうとは言い切れないものだったと言えます。
カネだけじゃない、という発見
メイヨー&レスリスバーガーの「人間関係論」
テーラーの登場以後、産業界ではどうやって工場労働者の生産性を高めるかが研究課題となりました。そんな中で、新しい発見をもたらしたのが、1920年代から進められたメイヨー&レスリスバーガーたちによる「ホーソン工場実験」です。ホーソン工場は、米国ウェスタン・エレクトリック社の工場した。この工場を舞台に、照明などの物理的労働条件と生産性との関係が研究されたのです。
しかし、この実験からは、物理的条件がいかに悪くとも生産性が上がり続けていく不思議なグループがいくつか観察されました。
なぜなのかをよくよく調べてみると、労働者たちが、自発的に登場したリーダーのもとで「我々はいまアメリカの偉大な研究に立ち会っているのだ」と使命感を高め、よい成果を出していこうと固く誓い合ったからだったのです。
この発見から、メイヨーたちは、物理環境だけでなく、人間関係もまた大切であるとして「人間関係論」を提唱します。
後世からは、この一連のエピソードは、金だとか物理条件だけでなく、人の心はもっと複雑だということの発見として位置づけられています。仲間関係や、使命感、成長といった要素もまった、モティベーションにおいて大切だ、という重要な気づきを得て、科学の大きな発展契機となったのがホーソン工場実験なのです。
金銭”だけ”じゃないというバランス感覚
しかし、モティベーションの科学の基本部分として、私たちは忘れてはならないのは「人は金銭だけでは動機づけられない」のであって、まずはきちんと金銭で報いることが大切だということです。
「やりがい搾取」という言葉があります。仲間、成長、社会的承認…そうしたものを見返りに、金銭報酬を押さえる経営のやり口です。心をこそ満たせば、カネなどもらわなくてもよい…そうした手法では、人材は長期的に働くことはできませんし、ひいては経済も活性化していきません。
テーラーが提示した「生産性の高い働き方に対して、まずは金銭で動機づける」は、やはりモティベーションの科学の第一歩として、とても大切なことです。でも、金銭だけでは、人は動機づけられない。このバランス感覚をもつことが、よい「働くためのモティベーション」を設計するうえでの、基本中の基本です。
(APS学長・中川功一)
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