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執筆者の写真功一 中川

【簡単】SWOT分析(スウォット分析)のやり方と事例。時代遅れにならないプロの技。

SWOT分析とは

簡単に言うと

SWOT分析は、企業が置かれている状況を、内部要因か外部要因か、良い要因か悪い要因かという2軸4象限に整理し、客観的・中立的な視座から企業の今を捉え、今後の戦略を立てていくための分析手法です。経営戦略論の第一歩として、最も重要で、最も有名な手法だと言えるでしょう。企業経営を行うなら、まずはこの手法からです。


(動画での解説はこちら!聞き流しながら読んでもらえばいっそう理解度が高まります!)


SWOT分析の中身

SWOT分析(スウォット分析)という独特の名前は、「内・外」、「良い・悪い」の2軸で分けられた4象限の頭文字からきています。


  • 企業の内部にある良い要因 = 強み(Strength)

  • 企業の内部にある悪い要因 = 弱み(Weakness)

  • 企業の外部にある良い要因 = 機会(Oppoerunity)

  • 企業の外部にある悪い要因 = 脅威(Threat)

この4つの単語の頭文字を順に並べて、SWOTと呼ぶのです。内部と外部の区別は、「自分たちがコントロール可能なもの」であれば内部、「コントロールできないもの」を外部とするとよいでしょう。一般的には内部要因としては自社の人・モノ・カネ・情報といった経営資源や、製品・サービスの性能やコスト、技術、ブランド、生産能力、流通網などが該当します。他方、外部要因としては、競合の状況や、市場トレンド、法・制度、マクロ経済状況、社会・文化の状況、部品や材料の供給状況などが該当します。


これらの要因をまずリストアップしたうえで、自社にとってそれは良いことなのか、悪いことなのかと、考えていくのです。


(SWOT分析のシート(ppt)を公開していますのでご活用ください!)


SWOT分析使用のポイント

気楽に使う

第一に言えるのは、難しく考えるな!です。どうも世間一般ではSWOT分析は「カジュアルに、場当たり的に使うな」と教えられるようです。厳密な吟味をしていないSWOT分析は意味をなさない、と。しかし長年この手法を伝え、各社・各現場に定着させてきた私(中川)の経験からすると、ハードルを上げて良いことは何もありません。


まずは気楽に使ってみることです。内・外の区別が正しいか、良い要因なのか悪い要因なのかと心配になる必要はありません。大切なのは分類を上手く行うことではなく、そこから戦略を立てることなのですから。頭が回り出している分には、使い方など自由でよいのです。


戦略目標を定める

ただし、そんな中でも使う上で重要な注意点があるとしたら、わが社のヴィジョンやゴールは何なのか、を明確にしておくことです。


たとえばマクドナルドを考えたとき。マクドナルドの内部の重要な特徴は、安価に、あっという間に商品を顧客に提供できる、そのコスト競争力とオペレーションスピードです。


これをどう評価すべきか?強みなのか?弱みなのか?


皆さんはその評価が、会社のヴィジョンとゴールに依存していることがわかるでしょう。誰もが気軽に、安価に、すぐに食べられる場であることを会社のヴィジョンにしているなら、マクドナルドの店頭オペレーションは圧倒的な強みです。一方で、今後はくつろぎ・安らぎを提供する高級路線でいくなら、変革を妨げる弱みとすら評価されるかもしれません。


分析と戦略を混同しない

SWOT分析を使ううえでのもう一つの鍵は、必ずそこから今後の戦略のアイデアを出すことです。アイデアのレベルは自由です。現場でのちょっとした工夫から、経営者目線での大方針まで、どういうレベルでも、またそれが正しくとも正しくなくとも、まずはアイデアを出していけるようにトレーニングをすることです。


その理由は、SWOT分析で忌避すべきことは「4象限に整理しただけ」となってしまうことだからです。綺麗に表に整理することに何の価値もありません。そこから策略を立てていくことにこそ意味があり、そこまでやってSWOT分析なのです。


分析のみでとどめず、必ず戦略まで立てるようにすることで、SWOT分析は真価を発揮します。


データの裏付けで固める

あくまで気軽に運用すべきですが、印象論に終始してしまうことは避けなければいけません。とくに重要な判断を行う場面では、そのカギとなる要因について、なるべくデータで裏付けをとるようにするとよいでしょう。



専門家の手順

カジュアルな運用と、厳密な運用で使い方を分ける

実はこのSWOT分析は、現場では2種類の使い方が併用されます。1つは、「気軽にやってみる」使い方です。グループメンバーで、あるいは個人で、時間をかけずパッと現状を整理してみるやり方です。私もまずはこちらのやり方で、企業が置かれている状況の概観を掴むことを皆さんに推奨しています。


しかし、企業としての大方針を立てるとなれば、話は別です。そこから内部・外部に深掘りをしていって、企業の状況を精密に分析したうえで、ふたたび、精緻にS・W・O・Tをまとめたうえで、策略を立てるべきです。ここではその「フルバージョン」での運用を紹介します。


自社の経営方針をしっかり立てるときや、あるいはコンサルティングを行って戦略提案をする場合には、こちらのアプローチを採用するようにしましょう。


外部環境分析①PEST分析

PEST分析とは、会社をとりまくマクロ環境要因(大きな外部構造)を知るための手法です。Policy(政治・政策・法律・制度など)、Economy(国内経済・世界経済・消費動向・生産動向・投資動向など)、Society(社会・文化・トレンド・社会課題など)、Technology(業界内の技術動向、産業界全体の技術動向)、の4つの視点で自社がいまどういう社会情勢の中にいるのかを整理します。


たとえばマクドナルドの場合で言えば、以下のようなことが言えるでしょう(2022年時点)。

  • Policy:食の健康、食の安全、食品デリバリー、食材輸入に関する法改正 など

  • Economy:国民所得の変動、そのうち外食に使われる割合、外食の客単価、世界の食品供給状況 など

  • Society:フードロス問題、子どもの栄養問題、家畜の生命倫理、菜食主義、オーガニック、食育 など

  • Technology:DX、メタバース、ドローン配送、自動運転、AI・ロボットによる生産 など

如何でしょうか、マクドナルドの例を挙げましたが、現代では企業を取り巻くPESTが急激に変わっており、これらのことに目配せをしなければ取り残されてしまったり足元をすくわれてしまう可能性があることが、理解できたのではないでしょうか。

(SWOT分析のシートも公開・共有しています!ご活用ください!)

外部環境分析②ポーターの5要因分析

自社が、実際にどういう競合企業と戦い、どういう顧客や、どういう供給業者と付き合っているのかという、より直接的な事業における外部のプレーヤ-との関わり合いを整理するのが、ポーターの5要因分析です。ポーターの5要因分析では、自社と商売上の関わり合いのあるプレーヤーが、どれくらい自社から利益を奪っているかという側面に集中して、業績を悪化されている要因を特定します


精緻な分析はぜひ動画を参照してもらいたいのですが(以下)、ここでは簡単にその視点を紹介します(どういう要素を分析すればよいかさえ理解すれば、SWOT分析は十分できます)。簡単に、国内マクドナルドを例にした場合の対象も付けておきましょう。

  • 要因①:直接の競合企業(モスバーガー、すき家、スターバックスなど)

  • 要因②:新規参入の可能性がある企業(海外の新興外食チェーンなど)

  • 要因③:同じ市場を奪い合っている代替品産業(コンビニ、スーパーの総菜、生協、自炊セット屋など)

  • 要因④:顧客。どれだけ値下げ圧力が強いか、どれだけ競合等への流出リスクがあるか

  • 要因⑤:供給業者。どれだけ原料費高騰可能性が高いか、どれだけ競合に動く可能性があるか


ポーターの5要因分析・前半

ポーターの5要因分析・後半


内部資源分析:バリューチェーン分析

自社の内部要因を分析する手法としては、ここではバリューチェーン分析を紹介しましょう。自社の事業フローを描き出し、各ステップが十分に競争力を備えているかどうかを吟味していく手法です。


以下の、戦略論の大家マイケル・ポーター教授によるバリューチェーンが広く知られていますが、必ずしもあなたの会社がこの形にあてはまらないことも多いかと思います。その場合には、自社の事業フローにあわせた形で作り直して、分析をします。

(バリューチェーン分析のシートも公開・共有しています!)

以上をまとめて、SWOT分析→クロスSWOT分析

こうして、内部・外部の状況をひととおり整理したところで、改めて、それらをSWOT分析に書き出していくのです。


たとえばマクドナルドについて、以下のように現状がまとめられたとしましょう。

ここから、どうすればよいか?何度も繰り返しますが、まとめただけではSWOT分析はまだ半分です。残り半分、ここから戦略を立てる方向へと進んでいかなければなりません。ある程度、訓練を積めば、この表を見ながらどうやって会社としての次の方向を打ち出していくか、考えることができるでしょう。ですが、なかなか初めのうちは、この表から策略は浮かんできにくいはずです。


そうした時に役立つのが、クロスSWOTです。(TOWS分析とも呼ばれます)。4象限の情報をそれぞれ今度は軸のほうに入れて、掛け合わせて戦略を考えるのです。

強み×機会:強みで機会をものにする

品質の安定、オペレーションの早さを活用すれば、デリバリー需要を先行して押さえられるはずだ

弱み×機会:弱みであった部分を機会でカバーする

店舗ではどうしても接客や雰囲気が弱点となるので、デリバリーやドライブスルーはそれをカバーできる

強み×脅威:強みで脅威に対抗する

外出自粛や感染症がある中で、自社の品質管理技術を用いれば食品の衛生が担保できる

弱み×脅威:自社の弱点部分への対策を考える

接客が最小限であることを逆手にとって、感染症時代向けの店舗に生まれ変わる


このように考えていくと、デリバリー需要対応や、店舗のDX化による人手を最小限として品質を担保する方針が、マクドナルドの採るべき戦略として浮かび上がってくるのです。


如何でしょうか?ここまでのステップをやり切れば、安定して現状分析から戦略立案までいけそうだな…と感じてもらえたのではないでしょうか。


カンタン簡易なSWOT分析のやり方

とはいえ、もっと簡便な方法をとっていただいてもOKです。ある程度、その会社の中で働いた方であれば、多くの場合、簡便な分析で十分に現状把握できます。そうした場合には、ステップ・バイ・ステップで進めていけば、さほど時間を要さずにSWOT分析ができるはずです。


  1. さっくり事前準備をする 会社の決算資料や、ウェブサイト、パンフレットなどを揃えておくとよいでしょう。たとえ経営者であったとしても、意外と忘れてしまっていることがあるものです。

  2. 機会を書き出す まずは思いつく限り業界内で沸き起こっている事業機会を書いてみましょう。抜け漏れがありそうだ…と思われた場合は、PEST分析などを補ってみるとよいでしょう。

  3. 脅威を書き出す 自社がいまさらされている、すぐに対処すべき課題から書いていきましょう。こちらもPEST分析が視点を補う助けになるはずです。

  4. 強み・弱みを書き出す 自分の会社の業務のフローを書き出しながら、どこは強い、どこは弱い…と考えてみましょう。

  5. SWOTにまとめ、クロスSWOTを行う。 それらを一覧の表にするだけでも、自分たちがまずどこから手をつけていくべきなのか、あなたの頭は意外なほど整理がついていることを実感するはずです。そこから、クロスSWOTを実施してみれば、さらに、今やるべきは何かがはっきりするはずです。

業種ごとの実践例

①アパレル小売業A社の場合

あるeコマース中心の格安衣類販売会社では、業界に先駆けてオンライン販売をしていることが強みとなっていました。しかし、商品企画が弱く、競合と明確な商品の差別化ができていなかったことが弱みでした。

一方、業界では高級メゾンではなく安価な品に顧客が流れていく傾向が続いており、これは自社にとって機会であると考えられましたが、外出自粛明けでオンラインではなくリアル店舗に足を運ぶ人が増えているのは、自社にとって脅威であると考えられました。


このような情勢の中で、A社は商品企画こそが一番の経営課題だと考えました。他社でも同じような商品が買えてしまうのであれば、リアル店舗や他のeコマースに顧客が流れてしまう可能性があります。そこで、同社は新商品企画部門を立ち上げ、オリジナル商品を開発、メーカーと共同で新作を創ることで、他のブランドにはない商品ラインを揃えることができ、「●●ならA社」という確固とした地位を築いています。


②医療機関Bクリニックの場合

医療機関Bクリニックは中規模な町のお医者さんです。親切丁寧に患者さんの話を聴きながら治療を行うことを信条としています。ですが、そんな病院ゆえに評判がよく、多くの患者さんが足を運んでくれるものの、さばき切ることができず、待ち時間も長くなってしまうし、医師も長時間労働になってしまう…という問題が起こっていました。


このBクリニックをSWOT分析すると、S:患者さんに寄り添える医師。W:オペレーションの速度が遅い、待たせてしまう仕組み。O:評判の良さ。T:労働環境からくる医師の流出リスク。といった形に整理できます。


この状況を改善するために、Bクリニックが選択したのは医師の増員、設備レイアウト変更によるオペレーション能力の増強でした。待ちを減らせるように予約のシステムも見直し、顧客(患者)の不満を減らしつつ、医師の労働環境の改善も実現したのです。


以上のように、SWOT分析は、規模の大小を問わず使うことができる、とても便利な手法です。冷静に、いまの状況を整理し、最初に何をやるべきか、優先順位をつけていくうえで、あなたの役に立つ手法になるでしょう。


おすすめの動画・書籍など

改めて、このSWOT分析については、私の動画を見ていただくことをお薦めします。

以下は、特別公開!ということで、オンライン経営スクールAPSでの私の手によるSWOT分析の解説動画となりますので、こちらも参考にしていただけたらと思います。



書籍としては、私が早稲田大・井上達彦先生たちと執筆した「経営戦略」のテキストは、使うことを念頭にSWOT分析の方法を説明しておりますので、皆さんの力になれるのではないかと思います。



Q&A!

SWOT分析はもう古い?

SWOT分析は経営戦略論の基本骨格となる思考法なので、古いというより、「これが原点であり基礎」と考えるべきものです。


SWOT分析は使えない?

SWOT分析を使えないとする方の多くは「分析どまり」だからです。戦略まで発想することで真価を発揮します。ただし、SWOTに整理しただけで、戦略発想を拡げやすいかといえば、十分ではないのは事実です。だからこそ、現状分析についてはPESTや5要因分析、バリューチェーン分析の併用が有効で、発想を拡げるにあたってはクロスSWOTが有効となります。


個人では使えるの?

企業のみならず、個人についてや、部門についても使うことができます!


どうしてSWOT分析が戦略論の基本なの?

SWOT分析は、1960年代に内・外という考え方を提示することで、その後の経営戦略論の発展の土台となりました。その後、1970年代~80年代に外部の分析手法が発展し、80年代後半~90年代に内部の分析手法が整い、経営戦略論がひとまずの完成を迎えています。


良い・悪いという区別がつけにくいです。

厳密に区別することがここで大切なことではありません。大切なのは、自分の思考をニュートラルに保つこと。人はついつい「良い側面ばかり見てしまったり」逆に「悪い側面ばかりに目が行ったり」してしまうものなのです。今、自分はものごとの良い所ばかり見てしまっているなと思ったら、足元をすくわれないよう、そこにある悪い要因を考えてみる。このように、思考のバランスをとるためにも、SWOT分析はとても有用です!


(APS学長・中川功一)

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