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執筆者の写真功一 中川

ビジョンとは【簡単まとめ】事例と作り方。

ビジョンとは

簡単にいうと

ビジョン(Vision)とは、企業のあるべき姿のことです。経営戦略を立てるに際して、最初に設定されるべきものが「自分たちはどうなりたいのか」にあたる、ビジョンです。ビジョンがあってこそ、企業の置かれている現状が正しいのか、正しくないのかが分かり、それに対してどうやってギャップを埋めていくのかという戦略が立てられるからです。



もう少し詳しく

とはいえ、ビジョンとはどういうものなのか、皆さんもイメージできないでしょう。まずは1社、事例を紹介しましょう。近年、ビジョンを打ち立て、それに沿った戦略を実現して、変革を成し遂げた会社として、資生堂を採り上げます。


資生堂「Visioion2020」

資生堂は「一瞬も一生も美しく」という理念のもと、日本を本拠地に、いまやグローバルで様々な美容事業を行っている会社です。しかし、この会社が2010年代後半に大きな転換を遂げたことは、意外と知られていません。


資生堂は2015年にVision2020を策定します。2020になりたい姿として、「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニーへ」という基本方針を設定します。これがビジョンの核です。


資生堂はさらに、売上高1兆2000億円超、営業利益1200億円超、かつプレステージ市場での売り上げが40%超という具体的数値を設定します。数値目標を打ち出すことで、内部メンバーに分かりやすく何をやるべきかを示したのです。そんな中でも、プレステージ市場で40%という数値は目をひきます。当時、資生堂は廉価ブランドから最高級ブランドまで非常に幅広い商品分野をカバーしていましたが、廉価品は今後の自社の事業領域ではなく、高級路線こそが自分たちの進むべき道だと示したのです。


さらに、資生堂は具体的な事業領域も規定します。1)化粧品を軸としながら、2)高機能美容食品、3)バーチャルメイクアップ、4)デジタル美容コンテンツ、5)最先端美容技術による新カテゴリー、6)毛髪再生、7)パーソナライズ美容サービス、8)美容カウンセリング、9)美容デバイスの9つを、自社が手掛けるべき事業領域に規定します。それぞれについて、具体的な数値目標も与えられました。


各領域でどう事業を行うのか、その具体的な活動内容も示されました。「ブランド価値」を高めていくことを最重要とし、そのためにマーケティングと製品開発の2本を活動の柱としました。組織としては、現地・現場主義で、フラットでスピードの速い組織、消費者や株主へのアカウンタビリティ(説明責任)を徹底する、という方針が定められました。


この方針に沿って全社が一丸となり変革を推し進め、同社は前倒しの2017年にはおおよその目標を達成、2020年には見事に「世界で戦えるグローバルビューティーカンパニー」に生まれ変わっています。


ビジョンに求められる要素

以上の事例を踏まえると、組織を動かしていくためのビジョンには、以下のような要素があるべきだと考えられます。総じて、明瞭に描かれた未来の姿と、その具体的な数値目標、さらには、それを達成するための基本的な方策までもが示されたものだと言えるでしょう。そして、「こうなれたらいいな」というフワっとした目標ではなく、実現への強い意志が示されたものだと言えるでしょう。

  • 明快な基本メッセージ

  • 数値目標

  • 事業領域の規定

  • 具体的な事業活動内容


(公開中のこちらの講義動画では、資生堂の事例を含め、ビジョンについて一通り解説していますので、ぜひ参考にされてください!)

ビジョンの5つの目的


企業経営には、どうしてビジョンが必要なのでしょうか。過去の研究では、大きく5つのことが指摘されています。


(1)資源吸引

今日、よい企業ビジョンのもとに、人、カネ、様々な物資が集中するようになっています。どうせ働くなら、自分の力が活かせて、社会に役立つように働きたいのは自然なことですし、どうせ金を出すなら良いことに使いたいのも自然なことです。スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクのビジョンに投資家や顧客、人材が殺到しているように、ビジョンはまず資源吸引としての役割が強くあるのです。


(2)メンバーにとっての共通ゴール


ビジョンの第2の役割は、仲間たちに共通のゴールを与えることです。今日、組織の中では様々な人が、それぞれの思いをもって働いています。それぞれに考え方が違っていてよいのが、あるべき組織・社会のあり方ですが、その中心には、共通の目指す未来が必要です。


(3)行動指針

ビジョンは、どうすればよいか判断に迷う際の基準になるものでもあります。組織メンバー皆の一挙一動をすべてコントロールすることはできませんし、すべきではありません。そんなときに、現場での判断の支えになるのがビジョンです。活動が、ビジョンに沿っているのかどうかが、判断基準となるのです。


(4)組織の上下間の統合

明瞭なビジョンが示されていれば、それは組織の上下階層の動きに一貫性を与えるものとしても機能します。ばらばらな動きになることなく、組織として統一的な行動ができるようになるのも、ビジョンの力です。


(5)個人の心の拠り所

ビジョンは、究極的にはそこで働く一人一人の心の支え、基本的動機を与えるものになります。自分が何のために働いているのか、それを見失わないようにするためにも、企業はビジョンを打ち出してあげるべきなのです。


ビジョンが必要とされた背景

コリンズの「ビジョナリー・カンパニー」

このように見てくると、ビジョンは当たり前のように企業経営で求められるもののように思えます。しかし、ビジョンの重要性が注目されたのは、実は割と近年のことで、1980~90年代からです。


それまで、ビジョンというものは必ずしも必須のものとは考えられてはいなかったのです。もちろん経営理念のようなものはどんな組織にもあり、基本的な活動方針もありましたが、それを強固な組織のマネジメント手法にしたり、戦略立案の軸にしたりということはされてきませんでした。


ビジョンが注目されるようになる下準備として、まず1980年代に、企業文化が注目を集めます。優れた業績をあげている企業「エクセレント・カンパニー」は、メンバーの判断や行動に確固たる価値観があるらしいということが明らかになり、組織としてしっかりした文化が作られているということが分かったのです。


そこから進んで、この文化というものの中核にあるものが、リーダーの打ち出すビジョンであるということが分かってきました。1995年にコリンズが発表した「ビジョナリー・カンパニー」が大ヒットとなったことで、産業界でも、学界でも、ビジョンというものの大切さが広く知れ渡ることになったのです。


そして、優れたビジョンを打ち出している会社が実際に高い業績をあげていることが実証され、アップルのような成功事例が登場するに至り、ビジョンは今や必須の経営手法だと考えられるようになっています。


ビジョンの作り方

1.過去、現在、未来の棚卸しをする

ビジョンは、どうやって設定すればよいのでしょうか。ここでヒントとなるのは、非常に似ている言葉たちに注目することです。近年、ビジョンのほかに、パーパス、ミッション、バリューなどという言葉が登場しています。よく似ている言葉ですし、目くじらたてて度の言葉がどう違っているのか、と議論することは不毛でしょう。ですが、これらの言葉の本来の意味や役割に注目していくと、ビジョンとの違いと、ビジョンをつくる上でのこれらの言葉の役割が見えてきます。

  • パーパス:企業の原点=過去。自分たちは何のために存在しているのか

  • バリュー:企業が大切にしていること=現在

  • ミッション:企業が実現しようとしている世界=未来

パーパス、バリュー、ミッションはそれぞれ企業の過去、現在、未来について「あるべき姿」を論じている言葉なのです。これに対し、ビジョンは「少し先の未来のあるべき姿」です。時間軸が違えど、いずれも「あるべき姿」。だとすれば、パーパース、バリュー、ミッションを考えていくことで、ビジョンが見えてくるはずです。

個人でも、グループでも良いので、自分たちの過去、現在、未来を紐解いてみましょう。過去については、創業の精神や、過去にどういうヒット商品が生まれたか、どんな分岐点があったか、痛い教訓は何だったか、ずっと大切にしてきた考え方は何か、などを考えてみるとよいでしょう。


現在については、いま、組織の中で大切にされていることや、顧客に何を提供しているのかを考えてみます。


そして、未来については、今後成し遂げたい事や、どんな組織になっていたいか、そこにどんな困難があるのか、どんな壁を乗り越えないといけないのか、どういう新しい機会が生まれてくるだろうか、などを検討します。


そうして、時間軸の中で自社のあるべき姿を考えていくと、3-5年先くらいのあるべき姿として「ビジョン」が浮かび上がってくるはずです。


なお、この分析手法は過去と未来の両面を見ることから、双つの面をもち、それぞれが過去と未来をみている神・ヤヌスの角、として「ヤヌスコーン分析」と名付けられています(出典:井上達彦『ゼロからつくるビジネスモデル』


2.目標を数値や行動方針にまでブレイクダウンする

前述のように、ビジョンは具体的な数値や行動計画まであってこそ機能します。その意味で、生産や販売、技術開発など各種業務について大まかな方向性をまず定めた後、それでは具体的な数値目標は、そして行動計画は…とブレイクダウンするステップが必須です。こうして丁寧に各現場に下ろしてやることで、ビジョンは完成し、真価を発揮するのです。


良いビジョンのチェックリスト

具体的である

実際にビジョンをつくってみた、あるいは元々あるけれども、このビジョンで本当に良いだろうか…と迷われる人もいるでしょう。そこで、ビジョンが備えているべき特徴をここで3つ挙げておきます。


第一は、とにかく具体的であることです。曖昧であってよいことは殆どありません。一人一人が、「何をすればよいか」を迷わないことこそがビジョンの役割ですから、具体性は、高められるだけ高めるべきです。


もちろん、一挙一動まで指定するレベルで作ることは現実的ではありませんから、あくまで努力目標です。もしあなたが「あまりに具体的すぎると行動を縛ってしまうのではないか?」と不安に思っているなら、そんな心配は不要だと私は明言できます。具体的にこうしてほしいというところまで個人や部門に対して目配せが行き届く、その配慮こそが相手の心を動かします。そしてもし、現場から不満があったりしたならば、それを対話の中で修正すればよいだけのことです。


長期的である

全ての人から同じゴールとして輝いている北極星のような存在がビジョンです。基本、3-5年先だとイメージしておくとよいでしょう。


挑戦的である

別に何の努力もしなくとも、自然と実現してしまうことであれば、別に大々的にビジョンとして打ち出す必要はありません。メンバーの心を動かし、行動を変容させ、目標達成に一丸となって動けるのは、挑戦的な目標に向かう時です。そこに挑戦があるか、はビジョンの大切な評価尺度となるでしょう。


ビジョンは頻繁に変更してよいのか

基本的には、成熟した企業であれば3-5年単位で見直すべきものです。もう少し早いペースで動いているベンチャー企業であるなら、1年単位でしょう。


とはいえ、様々な経済ショック、感染症、社会不安、政情不安が渦巻いているのが現代社会です。あるいはネット炎上やサプライチェーンの寸断など、様々なビジネスリスクもあります。その逆に、考えてもいなかった大きなチャンスが転がり込むこともあるでしょう。唐突に、これまでの事業環境が変わってしまうこもとは、現代では少なくありません。


大きな変化があったときには、改めてビジョンを描き直すべきでしょう。恐れるべきなのは、仲間たちがどちらに進んでいいか、逡巡してしまうことです。組織を率いるリーダーとして、常に方針は示す必要があります。その意味では、宙に浮いてしまったビジョンを引きずるよりは、今一度航路をひきなおすことが、大切になるでしょう。


おすすめの書籍

近年、再販されて大きな注目を集めているのが、ビジョナリー・カンパニーの著者コリンズがその前に出した本「ビジョナリー・カンパニーZERO」です。古い本ですが、ビジョンについて大切なことが書かれています。


動画としては、上記の私の講義動画をまずお勧めしますが、YouTubeライブでも詳細に解説していますので、こちらも参考にされてください!








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