書いた人 中川功一(APS学長・経営学者) 元大阪大学大学院経済学研究科准教授。「アカデミーの力を社会に」を掲げ、開かれたオンライン経営スクールAPSを創立。YouTube「中川先生のやさしいビジネス研究」も好評配信中! |
ペルソナ分析とは何か
マーケティングにおける、最重要概念のひとつがペルソナです。ペルソナ(Persona)とは、もともと劇における登場人物の仮面のことでしたが、心理学においてユングが「外面的に見て取れる人物の特徴」という意味で用いるようになり、それがマーケティングに応用され、「顧客の人物特徴」を意味するものとしてビジネスで使われるようになっています。
ペルソナの何たるかを抽象的に議論するよりも、さっさと使ってしまったほうが分かりやすいので、今回はさっそく事例・演習から入っていきたいと思います。
「高給時計のユーザーって、どんな人か?」
典型的な人物像を、ひとり、イメージしてください。なるべく具体的に、言語化して書き出してみましょう。
皆さんなりの人物像を描いたのではないかと思いますが、典型的にはこんな人でしょうか。
お金持ち。成功した人。
弁護士、医者、大企業の執行役員
特別扱いに慣れている
休日はリゾートホテルや老舗旅館
定期的に買い替える
成熟した大人
50歳台
男性
ゴルフが趣味
モノに価値をおく
こだわりはあるが、時計マニアとは違う
みなさん、容易に想像できますよね笑。
これがペルソナです。
それでは次に、この人に高給時計を売るための、製品・価格・販売チャネル・プロモーション策(Product, Price, Place, Promotion。いわゆるマーケティングの4P)を立案してみてください!
たぶん、皆さん、容易に策を出せたのではないかと思います。これも、色々なアイデアがあると思いますが、こんな感じでしょうか。
・成熟した男性を演出する、落ち着いていて、しかしはっきり高級とわかる居住まいの製品。機械式だが、複雑機構はあまりない。時間が正確。シルバー。
・70万円~100万円程度。
・銀座・心斎橋で買う。
・ゴルフツアーにスポンサーし、ゴルフ番組で宣伝する。新幹線グリーン車、飛行機ビジネスクラスの雑誌で宣伝する。
これが、ペルソナ分析です。くどくど説明されるよりも、使ったほうが分かりやすいですね。具体的な顧客像を明確に描くことで、商品案を軸に、具体的なマーケティング策を立案していくことができるのです。
ペルソナ分析の登場経緯
ペルソナ分析は、さしあたって現時点では最善のマーケティング手法のひとつと位置付けられています。将来的には、もっと良い手法が登場するかもしれませんが、およそ2000年頃から使われ始め、既に20年近く、ベストな手法として君臨している決定版です。
ペルソナ分析が登場するまで、マーケティングでは、顧客は「セグメント」として分析するのが一般的でした。男性/女性、若年/壮年、地方/都心、低所得層/高所得層といった分類軸で顧客を分け、そのうちの、どこを、どのように狙うべきか(すなわちターゲティング・ポジショニング)、と考えていくのです。いわゆるSTPですね。(全力STP解説はこちら!)
もちろん現在でもこのSTPは、きわめて有効なマーケティング立案手法です。STPでは、どこがボリュームゾーンか、どこをどう狙うのか、かという戦略の概要を定めるのによく当てはまります。まずはSTPで、おおよその狙いをつけるのです。
しかし、そこから具体的なマーケティング戦術(いわゆるマーケティングの4P)に落とし込むには、顧客像が漠然とし過ぎている。そこで、当該ターゲットセグメント内の顧客を、ペルソナとして具体化することで、マーケティング策を立案しやすくするのです。
かくして、
STP分析 → ペルソナ分析 → マーケティングの4P
というフローが、確立されてくるのです。
現在でも、多くのコンサルティングファーム、事業会社、広告代理店がこのフローを基本としてマーケティング策を立てています。
ペルソナ分析実行の注意点
ペルソナ分析を有効なものとするためには、いくつかの注意点があります。
データに基づく
実はこの点は、先ほどの高級時計のセッションでは飛ばしてしまいました笑。本当は、ちゃんとデータに基づいて描くべきです。現在では、いくらでもデータはネット上に転がっていますし、買うこともできますし、アンケートやインタビューなども非常に安価に実施できます。(アンケート実施の実際についてはこちらの記事を参照ください。)特に若い方は、エビデンスに基づいてマーケティング策を立てるということを体得すべく、データに沿ってペルソナを描く、を訓練するようにしてください。
ただ、多くの場合において、データは裏取りをするに過ぎないことが多いです。ときには予想外の発見もありますが、たいていの場合、あなたが自社商品について直観的に考えたペルソナは、あながち間違いではないのです。その意味では、まずはカジュアルに、データにも基づかずにパッと実施してみるのも、正解です。
ペルソナは1パターンではない
当然、自社の顧客、ある商品の顧客には、複数のパターンがあります。1つだけでなければいけない理由はありません。
それでは、分析時にはどうすればよいかといえば、「あえて」そのうちの1つに絞って策を立てる、が基本です。「あえて」絞ったとして、それ以外の顧客を取りこぼすことは、そんなにありません。
マーケティングチームの余力(人的・金銭的)があるなら、複数のペルソナに対し、複数のマーケティング策を実施していくのも、よいでしょう。とはいえ、効果を上げるためには、ある時期には特定のペルソナに集中するほうが効果は高いです。
必ずマーケティング策の立案までを行う
これは、学生さんや初学者さんがやりがちなミスであることを強調しておきます。顧客はこういう人物像なんだ、と描いただけで終わりにする。それでは、何らの意味もありません。ペルソナ分析は常に「そこから策を出す」ことと表裏一体です。具体的マーケティング戦術を描くところまでがペルソナ分析である、と理解しましょう。
なお、ここまで何度か登場しつつ、説明を省略してきましたが、マーケティングの戦術の基本形は、4Pと呼ばれるものです。Product:製品、Price:価格、Place:どこで売るか、Promotion:どういう媒体で、どんな情報を出すか。もちろん細かくは色々な戦術がありますが、基本はこの4つのPを揃えるところからです。
ペルソナの遷移
ペルソナ分析は、時間軸での変化としてとらえる/未来予測、未来構想としての使い方もできます。
先ほどの「高級時計のユーザー」を再掲します。皆さん、これを見てどう思いましたか?
この特徴に当てはまる人物は、年々、日本では減っていくはずですよね。。。
すなわち、このペルソナに狙いを定めたマーケティング策を行っていっても、ジリ貧になってくるはずです。
自社の中心顧客のペルソナは、10年後には、どうなるのか?どうなって、いるべきなのか?
エクササイズとして、高級時計で考えてみましょうか。
・起業家
・30代
・女性
・経験に価値を置く
・ランニングやヨガをする
・社会問題に関心が強い
・遊び心がある
…たとえば、こんな人物に対して商品を提供していければ、高級時計メーカーも安泰ですよね。
だとすれば、どういう商品が求められるでしょうか?
・心を楽しませるガジェットがついている
・ランニングやヨガを記録できる
・時計を買うと寄付になる
・廃材を使った商品
・オンライン空間で買えるが、購入者限定の特別オンラインサロンやSNSがある
・インスタで宣伝する
こんな感じでしょうか。
…どうですか、とてもクリエイティブな手法だと思いませんか?
もちろん、データでの詰めは、必要ですけどね!
(ペルソナ分析を用いた未来予測手法は動画でも解説しています!)
そんなわけで、ペルソナ分析が長らく最善のマーケティング手法として君臨しているのには、やっぱりそれなりの理由があるのです。ビジネスの技術・知識として必須のもののひとつと言えるでしょう。
ぜひ、使えるわざとして、身に着けてしまってください!
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