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「価値関数」1万円の得と1万円の損、重みが全然違う理由【行動経済学12】

1万円の得と1万円の損、重みが全然違う理由「価値関数」【行動経済学12】




今回も、行動経済学のまさに中核の中核、プロスペクト理論を引き続き掘り下げていきましょう。プロスペクト理論の第2回目、価値関数です。ここをしっかり理解すれば、人間の心理が非常によくわかるようになります。


ちなみに、今回プロスペクト理論の第2回になるんですけども、今回からご覧になられた方でも、しっかり理解できますし、それを通じてあなたのビジネス力がきちんと上がりますから、今回からでもご心配なくご覧いただければ幸いです。



プロスペクト理論とは


1万円得したケースと、1万円損したケースでは、人の心に与える重みが全然違う。

これを科学的に解明したのが、プロスペクト理論です。


プロスペクト理論は、ノーベル経済学賞に輝いた行動経済学の始まりの理論です。トヴァスキー(Tversky)とカーネマン(Kahneman)という、2人の研究者によって発見された、損得が発生する際の、人間の意思決定に関する新しい見解を提示した理論です。


従来の経済学やマーケティングでは、人間は合理的で、不確実な状況においても、確率を計算し、期待値や標準偏差を求めて、最適解を求めていくと考えていました。それに対して、人間はそんなにパーフェクトじゃない、いろいろ情緒的なものにも左右されるし、リスクの計算も大きく間違える。それを理論化したのが、プロスペクト理論の大きな科学的な功績です。


プロスペクト理論は、大きく3ステップから人間の意思決定がなるものとしてモデル化されています。

前回は、前処理について話をしました。意思決定に先立って、まず頭の中でパパッと、物事の基準値を計算する。この基準値のことを、参照点(リファレンスポイント)と学術用語で言う。前回はこの参照点というものがもたらすユニークな特徴を話しました。それは簡単にまとめれば、人間は何か判断するときに、だいたいこれくらいのメリットがあるだろう、と予測を立て、その予測を上回れば喜ぶし、予測を下回ればがっかりする、という特徴があるのだ、という話です。


参照点を理解するうえでは、こんな例が分かりやすいかと思います(前回をご覧になられた方は次のセクションまで飛んでください)。


外食をするときって、皆さん相場感をもつと思うんです。ハンバーガーならいくらくらい、ピザならいくら、ラーメンならいくら…と。


その相場感というのが参照点。


例えば、ピザ1枚1000円と言われれば、皆さん安いと思うはずです。参照点が、もっと高いからです。1500円くらいでしょうか。ラーメン1000円と言われれば、まあそれくらいかなと思う。参照点がちょうどその辺りだから。ハンバーガー単品で1000円と言われれば、めちゃくちゃ高いと思う。参照点がもっと低いからです。


実際のところは製造原価はどれもほとんど変わらない。なんならピザが一番安い。でも、製造原価や、摂取できるカロリー、おいしさ、そのいずれも価格には影響していない。価格を決めているのは、相場感(参照点)なのです。

参照点よりも、得した時、損した時


ここから本日の話。


次なるステップは、評価。参照点を設定したあと、私達は、どう物事の価値を評価をしているか。ここを今日は解説していきたいと思います。



参照点よりも得したとき、損したときで、果たしてどのように私達は、心の中で判断をするのか。


予想よりも安かったとき、高かったとき、あるいは、大体このくらいかなと見切りをつけていたところで、思いがけず得をしたとき、思いがけず損したとき。つまりは、参照点からずれたときですよね。参照点からのズレというものが、私達の心理に、どのように作用するのか。トヴァスキーと、カーネマンは、ここに価値観数という概念を導入しました。これが非常に上手なんですね。

上図が価値関数です。参照点から、現実の利益が、プラスにずれているというときはどうか。もちろん、心理的価値も、プラスに上に上がるわけなんですけれども、その喜びは実際に得た利得ほどには上昇しない、というモデルになっています。


一方、損失の方はと言いますと、現実の損よりも、心理的な不満のほうが大きくなる。ガクンと落ちる。実際に、これぐらいだろうと見積もった金額よりも、ちょっと損をするというだけで、めちゃくちゃ損をした気持ちになってしまう。このようにモデル化しているんです。


そして実際のところ、実はこのグラフっていうのが、私達の心理を上手に表現しているんです。


価値関数の考え方


こんな例で、説明してみましょうか。皆さん、ひょっとしたら、これがピンとくるんじゃないかなと思うんですけど…皆さんが、経済取引をしている中でも、めっちゃ損をしたような気分になる瞬間って、私は携帯ショップじゃないかと思うんです。携帯の契約をするとき、携帯を契約するときって、最初に、何万円かでスマホを買うじゃないですか。


たいてい、そのスマホって割引価格になってるんですよね。で、実はこの値段で提供するためには、あと、こんなオプションを付けてもらう必要があるちか、これに入会してもらう必要があるとか、色々、乗っかってくる。それぞれ、金額は大した事ないで。月額350円とか、500円とか。そうだそうだ、ケースも買わなくちゃ、液晶カバーも買わなくちゃ、とまた1000円くらいずつ増えていく。それらを足し合わせても、スマホの割引なんて到底及ばないわけですけど…どうでしょうか。めっちゃ損した気持ちになりますよね…。


だって、皆さん、スマホが割引で5万円だ、と、ここに参照点を据えてしまっているのですから


そこから、何度も何度も、色々な価格の上乗せがあって、結局5000円くらい乗っかってしまうと、もうめちゃくちゃ損した気分になる。しかも、それをちょっとずつ乗せられていく。今回350円、次は500円、今度は1000円、次に1500円…と、繰り返されるたびに、毎度、参照点が更新されていき、ガクン、ガクンと心理的満足度が下がっていくのです。

どうですか。このプロスペクト理論、価値関数というものが、非常に上手に、私達の心理を表現してくれてると思いませんか?逆に、プラスの場合を考えてみましょう。このスマホ、5万円のところを、あと5000円お安くしときます。って言われても、どうですかね。


嬉しいとは、思います。でも、5万円払うと意思を固めているところで追加で5000円安くなるといっても、ラッキーというくらいにしか感じない。めっちゃ嬉しい、ということはないはずです。


参照点を中心に、プラスにずれたときとマイナスにずれたときでは、全く重みが違うんだというのが、わかったと思います。これが、先ほどのグラフで、表現されているわけなんです


得は確実に


この価値関数という考え方に基づくと、私達が損をするときと、得をするときでは、全く違う心理モードで意思決定をしているということがわかる。まず、プラスの方を考えてみましょうか。得というものを目にしたときの、固有の人間の性は「得は確実に手にしたい」というものです。


実際に皆さんの心で、検証してみましょうか。皆さんの前にこの2択があったとします。


Aは、絶対に100万円もらえます。これ、超ハッピーですよね。Bは、50%の確率で、200万円、又はゼロですというもの。皆さんだったら、どっちを選びますか。もう、迷うことなく1択で、Aじゃないすか。絶対にもらえる100万ですよね。これは金額をいくら変えてもそうです。


絶対にあなたに1億円もらえます。一方で、それが50%の確率で2億円になるか、0になるか、どっちを選びますかと言われたら、確実な1億円じゃないですか。そうなんです。人間、プラスは、確実に欲しい

先ほどの価値関数で、この現象は上手に説明がつきます。こちらは、プラス側だけ切り取った、先ほどの価値観数です。確実な100万円の心理的価値と、0円か200万円かの半々の確率となる場合の心理的価値の平均値を比較すれば、確実な100万円のほうが上です。


損に対してはギャンブルする

逆に、損に対して人間はどのような特徴を見せるのか。今度は、損をしそうな状況に関しては、ギャンブルをするんです。うまくいったら、損がチャラになる。このような賭けに手を出しやすくなるというのが、人間の性質だということがわかっています。


さっきの問題を損にしただけで、皆さんの感じ方が全然変わるんだってことを、また皆さんの心で実際に再現してみせましょう。


まずA、絶対にあなたは100万円損します、という状況。


Bは、あなたは50%の確率で、損が200万円になるかもしれないけれども、他方、50%の確率で、チャラになりますという状況。皆さんなら、どちらを選びますか。


今度は、人によって割れるかもしれない。でも、さっきのケースでは、絶対にAだったものが、今度は、迷う問題になっているのではないでしょうか。得だった確実に得られるAだよね、となるが、損だったら、0になるほうに賭けてみたくなるのです。


これも価値関数で説明できるのは、すでに想像がつくのではないかと思います。

マイナス100万円っていうのは、やっぱり皆さんにとって、かなりずしーんとくる、心理的なショック。でも、この100万円の損失が、200万円に増えるからといっても、そんなにこの心理的な影響は、大きく変わらなかったりする。100万の損も200万の損も、心理的にはあまり変わらない(この重要な事実も皆さんよく心にとどめておきましょう。実際は大きな差ですね)。


すると、マイナス200万円か0円か、という2択のほうが、0になる可能性が残されているだけで、遥かに心理的な期待度は高くなる。100万円を確実に損してしまうよりは、勝負してみるか、という心理になるのです。


顧客満足の極意とは


この価値観数というのは非常に興味深いものです。損と得に対して異なった感触を持つっていう、人間の非常に面白い特徴。


これを、皆さんのビジネスに上手に落とし込むならば。すなわち、皆さんが、お客様や働き手をハッピーにさせようと思うならば。この損得の見せ方を、上手に相手に提示する必要があります。


これはまさに、おもてなしの極意。まずプラスを与えることについては、相手の予想を上回るおもてなしを、数々、提案すべきだということなんです。相手としては、大体これぐらいのサービスは、大体これぐらいのハッピーがあるだろうということで、参照点を作る。それを1回超える。そして参照点が更新されたところで、また別のことで超えてくる。これを繰り返すことで、相手の心理的満足度は急激に高まる。


他方で、損はどうかというと、損は逆に、後出し、後出し、後出しで出していくと、めちゃくちゃ心理ダメージがある。であれば、後になってズルズル追加負担は発生させないで、負担は一発、瞬間で済ませましょうというのが正解。例えば、東京ディズニーリゾートはまさにこれでデザインされている。最初に一括で入園料をもらって、あとは遊び放題。もし、1つアトラクション乗るたびに金を払わせると、すごい心理的ダメージがあるからです。


そして最後に、損をさせそうな状況であれば、回避できる可能性を与えてあげること。何%か、損が回避できる可能性があるというだけで、だいぶ心理的負担は減るのです。


これ、払っていただかないといけないものなんですけれども、実はこういうことをやると回避できるんですよ。という見せ方をすると、それは助かるなということで、お客様が受ける、心のダメージを抑える、緩和することができるわけなんです。


皆さん、ぜひ、こういう心理があるということを知っておき、ビジネスに活用ください。もちろん、悪用厳禁なんですけれども。人の心にはこういう性質があるよな、ということで、皆さんが、おもてなしをしたいあの方に、ぜひ、上手に使ってあげてください。


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