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執筆者の写真功一 中川

PEST分析の方法を、経営学者が解説!【テンプレート付き】


書いた人

中川功一(APS学長・経営学者)

元大阪大学大学院経済学研究科准教授。「アカデミーの力を社会に」を掲げ、誰もが学べる完全オンライン経営スクールAPSを創立する。YouTube「中川先生のやさしいビジネス研究」も好評配信中!



PEST分析とは何か

PEST分析は、マーケティングおよび経営戦略論の概念で、会社が置かれているマクロ情勢(大局的な情勢)の現在、そして今後がどうなるかを把握するための分析手法です。


マーケティング研究者のフィリップ・コトラーが提唱した手法です。


Policy:政治的状況。自社および自社が所属する産業に対して、政策・法律がどう変わるか、また(国際)政治情勢がどう作用するかを考えます。


Economy:経済的状況。自社および自社が所属する産業について、景気の動向や、顧客の所得の状況、消費の性向などがどう変わってくるかを分析します。国内経済と、グローバル経済という視座も大切です。


Society:社会的状況。社会・文化情勢がどう変わるか。特に自社・自産業をめぐって、社会の見方がどう作用するかを考えます。


Technology:技術的状況。自社・自産業に関連する技術がどう変化していくかを分析します。

テンプレートを置いておきますので、ぜひご活用ください!


使い方と特徴

①大局観を得るために使う

PEST分析は、企業の外部を分析する手法のひとつに位置付けられます。ただし、マーケティングや経営戦略論には、もっと直接的に、自社が置かれている競争環境や、顧客動向を分析する手法が存在しています(3C分析、STP、5要因分析、ポジショニング分析など)。その意味では、PEST分析は、即効性のある市場戦略を立てたり、競合対策をするのには向きません


PEST分析が生きるのは、もう少し大きな視座で、産業の行く末、自社の今後の在り方を考える場合です。たとえば、今後Technologyとしてはデジタルトランスフォーメーションが進んでいくので、この2-3年でDX対応をしなければならない…というようなレベル感での思考に生きるのです。


②行く末を考えるために使う

ここまでの議論の端々にも出てきていますが、PEST分析は「今、どうなっているのか」を分析するうえでは、さほど効果を発揮しません。「ふーん、確かにそうだな」と感じるだけです。


より大切なことは、「これから、P、E、S、Tがどう変化するか」という視座から、将来に備えることです。「今後の円安を踏まえると…」とか「社会がよりコト消費に向かうと…」とか「AIの活用がもっと積極的になったならば…」というように、社会の変化をとらえるために、用いるのです。


実例:ライザップ

実際に、マクロ環境の変化を見越して、上手な事業をデザインして成功した会社があります。2か月で50万円というプライシングを特徴とする、パーソナルトレーニングの「ライザップ」です。


同社はもともと健康食品を扱っていた会社でしたが、00年代半ばに立ち上げられたライザップ事業が時代の機運をうまくとらえ、急成長を遂げることができました。完璧に狙いすましたわけではないでしょうが、時代の変化をよく捉えたビジネスだったということができます。

第一には、政治情勢。当時、健康保険料の個人負担額の増大が話題となっており、国民の健康への意識が高まっておりました。当時のテレビ番組でも健康関連の番組が増えており、「国民の健康への意識が高まる」ことが予想されたのです。


第2には、経済情勢。当時、格差社会という言葉がキーワードとなっておりましたが、ヒルズ族なども登場しており、「莫大なお金を持っている人も増える」と想定されたのです。


第3に、社会情勢。これは驚くべき社会の変化ですが、日本では今や、誰もが見た目を気にするようになりました。見た目が美しいことで経済的・社会的に優遇されます。(昭和生まれの方は昔を思い出してほしいのです。今ほどには、見た目重視ではありませんでしたよね。)「美しさにいっそう価値が置かれる」社会が到来しようとしていたのです。


最後に技術情勢。コンピュータや通信が広く国民に行き渡るなかで、人々はどういう体験に価値を置くようになったか。「人が行う、アナログなサービスに、より高い価値を感じる」ようになりました。


これらのマクロ情勢の変化を踏まえれば、「富裕層向けに、美しさを、アナログなトレーニングサービスとして提供する」というビジネスモデルは、まさに時代の変化を上手にとらえていたサービスだったと言えるでしょう。


変化のシグナルとノイズを区別する

情報が、変化の「シグナル」なのか「ノイズ」なのかに、気をつけることです。一過性のブーム「ノイズ」に乗っかってしまっては、成功は長続きしません。大きな変化がそこに見える「シグナル」をこそ捉えるべきです。


シグナルかノイズかは、「今、起こっていること」だけではなく「過去から現在まで、起こってきたこと」の中で捉えることで、区別がつくとされています。例えば「ダイバーシティ」はシグナルでしょう。20世紀を通じて、平等化がずっと進められてきましたから、これは大きなトレンドだとみることができるわけです。


DXも「シグナル」でしょう。情報技術の進展と、それによる人々の行動変容はずっと起こり続けています。


一方、「メタバース」や「仮想通貨」などは、まだ社会がそちらに進むという明確なシグナルは出ていません。十分に情勢の変化に気をつけ、ウォッチしていなければいけませんが、歴史的な文脈の中で見ても、明確にそちらに進むとする根拠に欠けています。(それでも、社会の変化にはよく注意をしておくべきですし、先んじておくことも戦略ですが。)


まとめ

PEST分析は、経営者の視座、大局観を得るうえではとても有意義なものです。大きく時代がどう変わろうとしているのかを知り、それに先んじることができれば、会社をより繁栄させることができるでしょう。


一方で、「自社の未来を構想する」という目的なしに、なんとなく現状分析したり、未来予測をしただけでは、真価を発揮しない手法だということには注意すべきです。正しく使う=自社の未来を構想するためにこそ、PEST分析を活用してください。

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