企業の財務諸表の中でも、最もシンプルなものが、今期、どれだけ売り上げ、どれだけ費用がかかり、結果としてどれだけの営業利益を出せたのかという損益計算書です。実はこの損益計算書、経営に上手に生かせば、業績の大幅改善の強い武器になります!この記事ではAPS学長・中川が、損益計算書の使い方を解説します!
書いた人 中川功一(APS学長、経営学者) 大阪大学大学院経済学研究科准教授を経て独立。「アカデミーの力を社会に」をモットーに、誰もが経営学の知を得られるオンライン経営スクールAPSを設立。YouTube「中川先生のやさしいビジネス研究」も好評配信中! |
損益計算書とは何か
企業はその財務成果を開示する義務があります。その中で働いている人のため、株主のため、債権者のため、顧客のため、取引先のため。企業の金銭的状況を幅広く開示することは、責任ある経営の第一歩です。
開示されるべき財務情報の基本となるものが財務三表です。会社の元手となる資金をどこから集め、それをどういう資産として保有しているかを記載した貸借対照表(BS:Balance sheet)、会社が今期どれだけの売上・費用・利益を出したのかを記載した損益計算書(PL:Profit and loss statement)、結局会社の現金はどれだけ増減したのかを記載するキャッシュフロー計算書(CF:Cash flow statement)の3つです。
今回紹介するのは、そのうちでも、ある意味もっともシンプルな、今期の売上・費用・利益を計上した損益計算書です。
難しく考える必要はありません。損益計算書の説明は本当にこれで終わりです。今期について、どれだけの売上を稼いだかが右側に、これに対して売り上げを稼ぐためにかかった費用を左側に記載、その差分が営業利益ないし営業損失になるのです(下図)。
財務諸表の中でも、いちばん直観的にわかりやすいものかもしれませんね。
(YouTubeでも全力解説中!参考にして下さい!)
損益計算書の構成要素
損益計算書を構成する項目も、さして多くありません。
売上
右側に記載されるのは売上の1項目のみです。会社によっては2種類以上の売上を計上することもありますし、売上という表現ではないものが記載されることもありますが、何にせよ全て会社が製品・サービスを提供することで稼いだ金、という認識で間違いありません。
実は損益計算書は「売上がどうのこうのと検討するための書類ではない」のです(重要)。売上はもっぱらマーケティングなどの事業活動の範疇となり、財務会計・管理会計では「売上をどうやって上げようか」は埒外です。ですので、売り上げはもうザックリ1項目で会社の稼ぎの総額を表示している!というだけでよいのです。
売上原価
これに対し、より慎重に検討をしていくのが左側、費用のほうです。とはいえ、こちらもそんなに複雑ではありません。まず大切な数字は、売上原価。こちらも他の表現が使われることもありますが、要するに、製品・サービスをつくるためにかかった費用、です。
部品・材料の費用のほか、工場の操業費用や、設備の費用(償却費として費用計上します。これはまた後日)、そして、つくるためにかかった人件費がここに計上されます。
販管費(販売管理費)
端的に言えば、製品・サービスを「つくる」以外の活動にかかった全費用が、販管費として計上されます。本社業務などの管理費用、販売活動に要した費用、物流活動、研究開発活動、などなど。さらにブレイクダウンすれば、やはり人件費や、設備費、材料費、事業所の経費などに分かれてきます。
ただし、販管費のうちでも、特定の項目が事業活動上特に重要であったり、高額である場合にはその項目を別に分けて記載します。研究開発費と物流費が別建てで計上されることが多いです。
営業利益/営業損失
売上から、売上原価と販管費を引いたものが営業利益。残念ながら費用の方が大きい場合には営業損失となります。
うん、こちらも、難しくは無かったはずです。分かってしまえば、怖いことはなにもないですね!
損益計算書を経営改善に利用する
さて今回の中心テーマ。損益計算書って、経営改善にどう使うのか?…率直なところ、めちゃくちゃ使えます。戦略コンサル、会計コンサルもまずは損益計算書に手を付ける。かの(良い時期の)カルロス・ゴーンが日産自動車の経営改善で行ったのも、損益計算書からなんです。
まずは粗利益を見る
最初にチェックするのは、売上と売上原価の差です。売上から売上原価を引いたものを粗利益(Gross Profit、GP)と言います。まずはこの金額を見るのです。
なぜか?
売上原価が売上を上回っていたら、どれだけ商品が売れたところで、会社は絶対に黒字にはならないのです。
売上原価が抑えられていなければ、他に、どんな努力をしようと、絶対に赤字。製品・サービスがどれだけ売れても原価のほうが高ければ赤字。販管費をどれだけ削っても赤字。貸借対照表のほうや、その他のキャッシュフロー源である投資収益や財務収益を改善しようと、本業は赤字は変わらないのです。
なので、最初に見るのは売上原価/粗利益。これ、鉄則。
業界によって適正な売上原価水準は違います。この点については、その業界で、一般的な売上原価を調べることは必要になります。
その上で、業界水準よりも突出して売上原価が高いようであれば、何よりもまずこの売上原価に手を付けるべきです。工場の統廃合、人員の削減、部材の見直しなどなど。費目の大きいものから手を付けることも大切です。小さい費目を削るのに必死になっても、組織が疲弊してしまいますからね。
逆に、売上原価が十分に低ければ、それだけであなたの会社は高収益体質だと言えます。今日は、デジタル技術の活用で、従来企業よりも圧倒的に低い売上原価を実現できる場合があります。業界に先んじるオペレーション改革を行えば、すぐれた収益性を実現できるようになるでしょう。
次に販管費(物流費、研究開発費)をみる。
次には粗利益と販管費のバランスを見ます。
ここは、物流費を除けば、良くも悪くも削りやすい項目です。本社機能も、研究開発費も、販売活動の諸費用も、苦しくなったら、ある意味ではガリガリ削れてしまいます。
この、手の付けやすさがここでは逆に怖いんです。利益が出なそうになると、簡単に研究開発とか販売費を削っていくことになる。
正しいんですけど、結局、こうした費用って何なのか?ということをよくよく考えておく必要があります。これらの研究開発費や販売費は、つまるところ、未来への投資ですね。費用を削れば、必ず先細るわけです。
とはいえ、無い袖は振れないのも事実。現在の収益性の担保と、将来性への投資との、バランスをとることが、経営の仕事となるわけです。
難しいことはない。でも、とても強い経営ツール。
さて、以上で損益計算書を用いた経営改善のお話しは終わりです。拍子抜けの簡単さですね?難しい勘所は多くないので、すぐに使って頂けるようになるはずです。
こんな簡単でいいの?と思われた方。はい、いいんです。簡単で悪いことがあるでしょうか笑。簡単に使えるようにするためのものが経営の各種手法であるなら、損益計算書はそれに最も成功したツールの一つだと言えるでしょう。パッと売上と費用を対比させて、費用が大きいかどうかを検討する。よく出来ている手法です。
もちろん、損益計算書だけで全てが解決するわけではありません。売上アップにはマーケティングが、コストダウンには生産管理が、資金調達にはファイナンスが…と、それぞれの領域ではまた別の知識が求められます。
でも、それらの知識も今回同様に、ひとつずつ、学んでいけばよいのです。
今回で損益計算書がクリアできたのは大きな財産のはず!ぜひ、この調子で経営の基本を学んでいっていください!
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