連日のように、大変痛ましい報道が流れているロシア・ウクライナ情勢ですが、経済の方に目を移してまいりますと、私達も無関係ではなくなってきました。
ここから先、少なく見積もって、数ヶ月間にわたって世界経済全体がスタグフレーションというものに突入していく、そのような観測が大勢を占めるようになってきてます。
スタグフレーションなんて知らない、というのが一般的な感覚だと思いますので、本稿では「スタグフレーションとは何か」を解説していきたいと思います。
世界はスタグフレーションへ
実は戦争が始まる前から、スタグフレーションの懸念は出ておりました。しかし、ロシアの軍事行動というのが現実になって、今、世界ではこのスタグフレーションが現実となってしまいました。世界各国、各方面、様々な方が警鐘を鳴らすようになっております。
例えば、大変著名なエコノミスト日本第一生命経済研究所の永濱さん、この方は日本は既にスタグフレーションに突入しているという見方を示しております。
「日本は既にスタグフレーション」(2022.3.6 JBpress) 第一生命経済研究所 永濱首席エコノミスト
またYahooファイナンスにおける報道におきましても、ニューヨーク株式相場がアメリカのスタグフレーションを警戒した値動きになっているというようなアナリストの分析が伝えられております。
NY株式相場は米国のスタグフレーションを警戒した動き(2022.3.7Yahooファイナンス)
また、アメリカで投資ファンドの責任者をされている方は、欧州のスタグフレーションというのがもう現実に起こるものとしてここから先欧州経済は大変厳しい局面に入ってくだろう。
そのような見立てをしてます。
米国投資ファンド責任者 「ウクライナ危機に端を発する欧州のスタグフレーションは、低成長と高インフレが長期間続く形になりそうだ。欧州では、エネルギー価格が過度に上昇すれば工場が閉鎖を余儀なくされるだろう」 (2022.3.4ロイター)
日本のみならず、世界中の経済が、このスタグレーションというものに陥りそうだと考えられているわけです。
まずはこのスタグフレーションという言葉を解説しておきたいと思います。
スタグフレーションとは
この言葉は経済学者が作った造語で、二つの言葉を組み合わせた言葉です。
スタークネイション+インフレーション
スタグネーションというのが、景気後退局面ということを意味している言葉です。これに、物価上昇という意味のインフレーションという言葉が加わっています。景気が後退していく中で物価が高騰していくことを、スタグフレーションといいます。
そんなこと、結構あることなんじゃないの?わざわざ名前なんて付ける意味あるの?と思われるかもしれませんが、実は経済の中においては、このスタグフレーション局面は非常にレアなことです。もし実現してしまうと、非常に国民生活が苦しくなる、ということもわかっています。
インフレは、景気上昇と物価上昇
ここで物価の上昇、インフレというものはどういうときに起こるのかという話をしておきたいと思います。インフレというのは、成熟した経済システムのもとでは、基本的に景気上昇局面、景気が良くなっているときに起こります。経済という仕組みの中では、物価の上昇を伴いながら、企業の売上が増え、国民の所得が増え、景気が良くなっていくという傾向があります。
例えばそれってこういう状況なわけです。
・企業の売上や利益が増えた
→人々に配分できる金額が増える。給与を増やせる、株主配当が増やせる、取引先に支払えるお金が増える、会社の内部留保として次の投資に使えるお金が増える。
→配分を受け取った人々や企業が消費・投資にお金を使う。
→企業は、機能や品質を高めたり、イノベーションを行うことを通じて、より利潤の高い(価格の高い)財・サービスを提供しようとする。
性能機能の改善サービスの改善が乗った分だけ、物価が上がっていく、そうして企業がさらに利益を上げて配分額を増やしていく。この形で、うまく経済が回っているときというのは次第に財・サービスの実質的な機能性能が上がりながら価格も上がっていき、私達の取り分も増えていくということで、物価諸々額面が増えながら経済は成長をしていくわけなんです。
そんなわけで物価と景気というのは基本的にプラスの関係なっておりまして、景気上昇局面では物価が上がっていく。
逆に、これを利用して景気刺激策としては、例えば日本において日銀で円を大量に刷ってそれを市中にばら撒くことによって、国内で流通している貨幣の量が増えていきますと、それで企業が使えるお金が増え、私達の手元に残るお金も増え、イノベーションも進んでいく。これが景気刺激策の基本でもあるわけなんです。
スタグフレーションは景気悪化と物価上昇
しかし、これから起ころうとしているスタグフレーションというものの中においては、景気が悪化していく中で物価が上がっていってしまうということが起きるわけなんです。
このとき何が起こるか、皆さんもちょっとイメージが湧くんではないかと思います。
企業の売上は増えにくいわけです。
だとすると、人々に配分されるお金も増えないわけです。
金融セクターが企業に投融資できる金額も減ってしまう。
全セクター、使えるお金が減ってしまうわけなんです。
しかしその一方で、戦争の関係で物資が届きにくくなり、物価は上がる。
原油の価格が上がる、小麦の価格が上がる、そういうふうに私達の生活品の値段が上がってきますと、手取りは変わらない中で、物の価格が上がってしまうわけですから、実質私達は生活が苦しくなってくるわけなんですね。
これは私達生活者だけのことではありません。企業も、やっぱり原料価格が上がる、材料部品の価格なんかが上がっていく中で、利益は増えず売り上げも伸びないわけですから、経営が苦しくなる、先のことに投資を回していけなくなってくるわけで、これは非常に厳しい景気局面になってくるわけなんです。
今、スタグフレーションが起こる理由
資源の流通が減り景気後退と物価の上昇が起こる
どうしてそんなことがこれから起こってしまうのか。その理由は、今渦中にあるロシア、ウクライナは両国とも世界有数の資源国であるということに端を発するんです。
ロシアもウクライナも世界の中でも際立って巨大な原油ですとか小麦ですとか、私達の生活の最も基本のインフラとなる部分を供給している国の一つなんですね。
当然、ウクライナは現在そういうものがストップしてしまってる状態にあるわけですし、また世界がロシアと対立している中で、世界の国々がロシアとの経済取引を停止・縮小しています。ロシアからも原油や小麦が入らなくなっているということで、この世界の巨大な二つの資源国との取引が、実質的に止まってしまっている状況になっている。
だから景気後退が起こってくる。
様々な財の生産が滞ってくる。またそれの売り先が滞ってくる。
一方で、限られた原油や小麦は、争奪戦になります。当然、物価は上昇していくことになるのです。
世界的なこの原料の取り合いが起こっているがゆえに、物価はどんどん上がるけれども、物は手に入らないという状況が始まってしまっているわけなんです。
これは残念ながら、今の情勢が始まってしまった以上、程度がどれぐらいなのかともかく、スタグフレーションの局面が必ず来てしまうことは避けようがないのです。
私達の生活はちょっとずつ苦しくなっていく、これが既定路線
例えば先日、日本の岸田首相が豊洲市場を訪れてこういうことを言ったんですね。
「世界的な食料価格高騰が想像以上の影響であり政府としては速やかに対応していきたい。」
世界的な食品価格高騰は想像以上の影響―岸田首相 (2022.3.10)
またIMFもこの軍事衝突が起こって以来、早々に声明を出しています。
すでに非常に深刻な経済的影響が見られる。エネルギーのほか、麦やその他の穀物を含む一次産品の価格が急騰。―IMF (2022.3.5)
そしてまた、先ほど申し上げた永濱さんはまず、「ガソリンに影響が出るでしょう」とおっしゃっていて、車に乗ってる方は気がついてますよね。
まずガソリン、軽油、灯油。次に電気料金やガス料金。それから遅れて食料品。―永濱氏 (2022.3.6)
もう今でもガソリン高くなってますけれども、それから灯油や軽油にも影響が及ぶ。
まず、私達の電気・ガス・水道料金。これらの元は大半、原油によるエネルギーで供給されています。原油価格の上昇は、電気・ガス・水道料金に跳ね返ります。それから少し遅れて、食料品の価格というものに影響が出てくるでしょう。このような調子で、ここから数ヶ月にわたって、段階的に様々な物の物価が上がり、それにつれて私達の生活はちょっとずつ苦しくなっていく、これが既定路線であろうというふうに見られているわけなんです。
対策できることはあるのか?
資産防衛が必要
かくして私が今この時点で言えることがあるとすれば、備えましょうという、ことしか言えません。
資産防衛は、一定の意味があると考えられています。これから物価が上昇していく中で、希少な物資の価格は必ず上昇する。であれば、物資のほうに資産を動かしておくことです。
金ですとか、そういった貴金属などがまず視野に入ります。これらの希少なモノの価値は、貨幣との相対的価値が高まっていくでしょう。事実、金やプラチナの価格は、既にして上昇局面に入っています。
大切なことは実体経済も金融経済も自信をもって取り組む
もう一つ、これがとても大切なことなんですけれども、今回の事件は私たちの生活の外で起こったことだということです。私たちは、日常を普通に生きてるだけなのに、この世界情勢で生活が苦しくなる。大変、理不尽な状況なわけです。
だとすれば、一番大切なことは、自分たちの経済活動は別段間違ってはいないということです。私達や政府が経済運営を誤ったわけではないわけです。そこは自信を持つべき事です。
実体経済も金融経済も、間違ってはいない、ということで、自信をもって事業活動を行い、製品を磨き、イノベーションを起こし、経済を良い方向に回していくのが、一番のこの局面での防衛策です。
最大限、景気を良くすべく、全セクターがベストの仕事をする。そして、売り上げを増やし、分配を増やす。これがまず第一歩、足元でできることになるわけです。
そんなわけで、大変な局面にはなります。お互い大変なんですけれども、ここから先も世界の明るい未来を信じて、お互いにできることからやってまいりましょう。
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